一部の路面電車で『信用乗車方式』が開始 新たな課題など

広島電鉄は、市内線で運用されている路面電車の「1000形 グリーンムーバーLEX」で、
ICカード利用者を対象にすべての扉から降車できるサービス5月10日から開始しました。

これまでのように降車のために車内の前側に移動する必要が無くなり、利便性向上と乗降時間の短縮が図られます。
何年も前から検討され、実証実験も行われてきた「信用乗車方式」が、限定的ではありますがいよいよ本格的に始まりました!

広島電鉄は、広島市内の路面電車について、 ICカード利用者は1000型「グリーンムーバーLEX」限定で、すべての扉から降車ができるサービスを始める事を明らかにしました! 5月1

開始から少し時間が経ってしまいましたが、実際に乗ってみた感想などを書いておきたいと思います。

 

【広島電鉄】:グリーンムーバーLEX(1000形)限定 ICカード全扉降車サービスの開始について

これまでは基本的にバスと同様に、真ん中の扉から乗車し乗務員のいる前の扉で精算して降車する必要があり、
特に混雑時には車内移動が乗客の大きな負担となっていました。
乗降時間を増やし、速達性・定時性を低下させる大きな原因でもあります。

このような状況に対し、小型の3連接超低床車両「グリーンムーバーLEX」に限り、
「PASPY」や「ICOCA」、「Suica」といったICカード利用者を対象として、どの扉からでも乗り降りできるようにしたのが今回のサービスです。

 

まずはサービス開始に伴う車両の変化を、一気に写真で紹介して考察をしたいと思います。

1000形「グリーンムーバーLEX」

 

サービスが開始され、車両の中扉には「全扉降車車両」であることを知らせるステッカーが追加されています。

 

車両前面のガラスにもこのように目立つ表示が。

 

 

車両に入ります。
これまでは当然意識することはありませんでしたが、読み取り機の設置位置の関係で
外から見て左側が乗車、右側が降車と動線が別れる事になりました。

 

車内からも、大胆に乗車側と降車側で扉全体の色を変え、床面にも誘導ラインを貼り付けるなど、ビジュアル面での周知はなかなか手をかけて行われています。

 

乗降時の安全確保と不正乗車防止のため、運転席や中扉付近にモニターが追加されています。

縦長のものは従来から付いていた後方確認用で、下の大きいほうが追加されたモニターです。
両側の中扉付近がわかるよう、天井から広角カメラで車内を写しています。

 

定着するか 「信用乗車方式」

紙屋町や終点などの混雑する電停ではこの効果は絶大なもので、
ICカードを持っていれば、わざわざ一番前に移動しなくても自分に近い扉から降車できるので
大幅に乗降にかかる時間が短縮される場面もありました。

サービス開始してから数回路面電車は利用していますが、想像していたよりは中扉から降車するお客さん、いらっしゃいます。
扉が開いているときや走行中にも「全扉降車車両」であることを知らせる自動アナウンスが流れますし、
先程の扉の大きなステッカーや完全に出入りで色を分けた車内表示など、そこそこ認知は進んでいるのではないかと思います。

一度利用すれば確実に便利さは知っていただけるはずなので、粘り強く続ければ必ず定着していくと思いますね。

一部の車両には、サービスの周知のため、中扉付近に広島電鉄の職員を配置し、降車の際に案内を行っていたりします。頭が下がります。
同時に利用状況などのモニタリングも行っているようです。

 

 

課題も―

「全扉降車」のために、車内から見て扉左側が降車のためのスペースに充てられ、
乗車用のICカード読み取り装置に代わり、降車用の装置が設置されました。

これにより、乗車にかかる時間が増えてきたと感じます。
これまで扉の両側で乗車客を捌いてきたのが、片側のみになったためです。


(サービス開始前に撮影)

せっかくスムーズな降車を誘導できても、乗車に余計な時間がかかっていては意味がありません。

解消には、私が以前書いたような、ICカード「乗車」読み取り装置を主要電停に設置することで、
電車を待っている間に予めチェックインしてもらうのはどうでしょうか。
それが長期的に降車にも対応となり、車外精算できるようになれば理想的です。

 

中扉からの降車客は、”想像していたより多い”とは書きましたが、
それでも全体を通して約2~3割といった印象で、完全な普及にはまだまだ及びません。
広島電鉄にはこれからも地道な周知努力を続けてほしいです。

そして、出来るだけ早く、すべての車両形式・路線で全扉降車を始めるべきです。
車両によって利用できたり、できなかったりというどっちつかずな状況こそ利用者に一番混乱を与えかねません。
「よく分からないから前から降りよう」という人も出てきます。
しばらく利用状況を見て、不正乗車など問題がなければ他の車両にも展開していくとのことですから、今後注視していきたいです。

 

行政の制度面で、不正乗車を強く罰する法律が追いついていないのも大きな課題です。
現行の法律では、不正乗車した者に対し正規運賃の3倍までしか罰金を請求することができません。道徳的に残念なことではありますが、抑止力としては不十分です。

「信用乗車方式」は、路面電車の、広電の速達化・定時性確保に対し、非常に有効な施策の一つです。

中長期的には軌道法・鉄道法改正の働きかけ、短期的には広島市などの公共団体による独自の違反金徴収制度などを設け、公共交通高度化のための資金に当てるなどの施策を実施していくべきと考えます。

 


(国土交通省中国運輸局―路面電車のLRT化を中心とした公共交通体系の再構築の検討調査報告書[平成17年3月])

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