広電のLRT化に向けて 制度の壁 【信用乗車方式】

4月は広島駅へ、南道路へ、段原・東雲へ、都市高速5号線予定地へ、横川駅へ…
普段はあまり行かないところまで動きまわったので、現地レポートが非常に多くなった月になりました(笑)
それらが一段落致しましたので、久々に提案系の記事を書いてみたいと思います。
 
過去のシリーズはこちら。
広電のLRT化に向けて 胡町・八丁堀電停統合の提案
広電のLRT化に向けて 『急ぐ時はバス』?
広電のLRT化に向けて サイド/センターリザベーションの提案
 
 
今回のテーマは「制度・法律」の問題です。
事業者である広島電鉄や行政を担う広島市の決断力の無さや決定の遅さはこれまでに何度か取り上げましたが、
路面電車の高度化(LRT化)を妨げるものに、国の法律や制度もあります。
その辺りを、いつもご覧になって下さっているヒロさんのブログ『広島市の都市問題について考える(ヒロさんのblog)』も大いに参考にさせていただきます。
 
 
信用乗車方式についてまとめてみたいと思います。
信用乗車方式とは乗車運賃の支払いを車掌の元ではなく乗客に任せることにより車両のすべての扉から乗り降りを可能にすることを言います。
広島電鉄を含む国内の多くの路面電車では乗車専用の中央側扉と降車専用の扉が別れており、電停での乗客の乗り降りに多くの時間を取られていますが、このロスの解消が期待できます。
広島電鉄でもかなり前からこの議論はあり、2012年2月には社会実験も行われています。
ICカード全扉乗り降り車両乗車記
 
201202hiroden-2.jpg
 
 
 
信用乗車方式の採用にあたって最大の課題になるのが、不正乗車に対する罰則です。
広く信用乗車が導入されている欧州では通常料金の10倍前後の高額な罰金が徴収されますが、現状日本国内においては
鉄道運輸規程及び軌道運輸規程により、
割増運賃(罰金に相当)は通常運賃の2倍以内、元々の通常運賃と合わせて3倍の運賃しか徴収できません。
日本の交通事業者というのは運賃収入による交通事業運営が大原則であり、3倍という低い罰則では抑止力に繋がらないとの思惑から全くと言っていいほど日本では普及していません。
国や自治体が国民の「交通権」を保証し積極的に交通事業者に対して”運営費”の補助を行う欧州とは考え方の異なる部分ですね。
 
この事以外にも、仮に法改正を行なったとして具体的に何倍が妥当なのか(具体的立証は困難)、定着している割増制度を変えることに広く理解を得られるのか、トラブル・訴訟になった場合に行政側や事業者が責任をもって説明できるのか。
といった大きな課題もあるようです。
国交省大臣官房参事官などを経験された西川健氏の論文が、非常に参考になりました。
運輸政策研究所】:信用乗車方式と割増運賃制度について(PDF 約407KB)
 
長年検討はされているものの、まとめ上げるのはかなり難しいようです。
 
しかしながら、市内線での表定速度が12~3kmの広電にとって乗降時の時間短縮は極めて重要です。
一つの提案として、西川氏の資料にはこのようなことが書いてありました。(以下一部転載)

 他方,特定の地域でのみ信用乗車方式の導入を促進するのであれば,信用乗車方式を導入した時の不正乗車を抑止するという観点からは,割増運賃制度という民事上の制裁に過度の期待をするのではなく,地方自治体
で定める条例による行政刑罰や地方自治体の長の定める規則による過料で対処できないか検討の余地があるのではないかと考えられる注12).

(ここまで)
 
“国が定める民事上の罰則にこだわらず、地方自治体で定める条例等によって反則金を徴収できないか”
という案です。
これは実は最初に紹介したヒロさんのブログでも提案されていました。
条例という形では内容によっては強制的に徴収できない場合もあるそうですが、現在の運輸規定の改正があまり期待できない状態の中、大いに将来性を感じます。賛成したいです。
 
ただこちらも簡単ではないでしょうね。
条例を定めなければならないとなれば当然ですが広島市がやる気にならなければ不可能です。
駅前大橋線一つとっても未だに決められていないですし、実現には今とは比べ物にならない程の明確なビジョンとそのための実行力が必要になります。
アストラム西風新都線の延伸意欲をこちらに持ってきていただきたい位です(笑)
 
 
 
今回は制度面について考えてみましたが、電停の統廃合やセンターリザベーション・サイドリザベーションと違って、
基本的にソフト面で対応できる話であり初期投資も少なく済むものです。
本気になって取り組めば、比較的短期間で実現できるはずです。
国内の高度路面電車=LRTでは広島は完全に富山の後塵を拝するようになってしまいましたが、
挽回のためにもどうか積極的に検討していただきたく思いますね。


 

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