先日、福岡市を訪れる機会があり、天神地区を歩いてきました。
福岡市の都心ではここ数年、「天神ビッグバン」の名のもとで大規模な建て替えが相次いでいます。
完成した「天神ビジネスセンター」や「福岡大名ガーデンシティ」、2025年に開業した「ONE FUKUOKA BLDG.」など、都心を歩けば新しい大規模ビルが次々と目に入ります。
今回は現地で見てきたプロジェクトを紹介しながら、改めて話題の「天神ビッグバン」、そして博多駅周辺で進む「博多コネクティッド」とは何なのか。
広島市の都心再生と比較しながら考えてみたいと思います。
福岡の街を変える「天神ビッグバン」
天神ビッグバンは、福岡市が2015年から進めている都心再生プロジェクトです。
天神交差点から半径約500mの範囲を中心に、更新期を迎えた建物を、耐震性や機能性に優れた新しいビルへ建て替えることを促しています。
【福岡市】:『天神ビッグバン』着実に進行中!!
以下に一例を整理しました。
天神ビジネスセンター
(画像正面はⅡ期ビル。Ⅱ期ビルの奥にⅠ期ビルがある)
福岡地所が中心となって開発した、天神ビッグバンを代表する大規模複合ビルです。Ⅰ期・Ⅱ期の2棟で構成され、Ⅰ期は天神ビッグバンの規制緩和第1号として整備されました。続くⅡ期は、福岡市役所北別館跡地を含む街区に整備。両棟が隣接してオフィスや商業機能などを担い、天神中心部の新たなビジネス拠点を形成しています。
〔Ⅰ期:天神ビジネスセンター〕
高さ:89.56m、階数:地上19階・地下2階・塔屋2階
延床面積:61,100.34平方メートル
竣工:2021年9月
〔Ⅱ期:天神ビジネスセンターⅡ〕
高さ:約88m、階数:地上18階・地下2階・塔屋2階
延床面積:約62,720平方メートル
竣工:2026年6月
福岡大名ガーデンシティ
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旧大名小学校跡地を活用した大規模複合開発です。オフィスや商業施設に加え、九州初進出となる「ザ・リッツ・カールトン福岡」、住宅、公民館など多様な都市機能を導入。旧校舎の一部を活用したスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」とともに、ビジネス・交流・滞在の拠点となっています。
高さ:約111m、階数:地上25階・地下1階
延床面積:約90,400平方メートル
竣工:2023年3月
ヒューリックスクエア福岡天神
明治通りに面した旧「ヒューリック福岡ビル」を建て替えた複合ビルです。商業施設、オフィス、「ザ・ゲートホテル福岡 by HULIC」を組み合わせ、地下鉄天神駅とも直結。都心の限られた敷地を活用し、働く・買う・泊まる機能を一体化した施設となっています。
高さ:約92m、階数:地上19階・地下3階
延床面積:約20,683平方メートル
竣工:2024年12月
ONE FUKUOKA BLDG.
西日本鉄道が旧福岡ビルを中心とする街区を一体的に建て替えた、天神ビッグバンを象徴する複合開発です。オフィス、商業施設、ホテル、カンファレンスなど幅広い機能を備え、地下鉄天神駅や西鉄福岡(天神)駅とも接続。天神の商業・業務機能を支える新たな中核施設となっています。
高さ:約97m、階数:地上19階・地下4階・塔屋1階
延床面積:約147,000平方メートル
竣工:2024年12月
天神住友生命FJビジネスセンター
住友生命福岡ビルと天神西通りビジネスセンターを一体的に建て替えたオフィス・商業複合ビルです。地下鉄天神駅に直結し、敷地の東西には広場空間も整備。複数の既存ビルをまとめて更新することで、業務機能の高度化と歩行者空間・都市環境の向上を図っています。
高さ:約113m、階数:地上24階・地下2階・塔屋2階
延床面積:約42,000平方メートル
竣工:2025年6月
天神大樹(TENJIN TAIJU)
三菱地所が商業施設「イムズ」跡地で開発を進める大規模複合ビルです。オフィス、店舗のほか米・シアトル発の「エースホテル」が入居します。敷地内には緑化や広場空間を整備。都市機能と緑が共存する拠点を目指しています。
高さ:約91m、階数:地上21階・地下4階
延床面積:約73,742平方メートル
竣工予定:2027年5月
容積を稼ぐためのオーバーハング構造が凄い…
建て替えを動かした「天神ビッグバン」の仕組み
福岡都心地域は「都市再生緊急整備地域」に指定され、その一部はさらに「特定都市再生緊急整備地域」となっています。
これは広島市も同様で、都市計画の特例や金融・税制上の支援など、国の制度によるメリットを活用できるという大きな土台は共通しています。
では、その上で天神ビッグバンは何をしているのか、概略を整理しました。
(公式資料を元に管理人作成)
福岡空港は都心から非常に近いため、建築物の高さに厳しい制約がありました。
福岡市は国家戦略特区を活用し、この高さ制限を段階的に緩和。これに市独自の容積率緩和を組み合わせることで、民間事業者にとって建て替え後の事業性を高めました。
さらに「天神ビッグバンボーナス」として、低層部や公開空地を含めたデザイン、周辺との連続性、緑化、ユニバーサルデザインなどに優れたビルを認定し、
容積率の追加や、進出企業への優先紹介、地域金融機関による専用融資、行政によるPRといったインセンティブを受けることができます。
より良い都市空間を整備する対価として、
開発余力を増やす、完成したビルに企業を呼び込む、行政や金融機関も後押しする
という仕組みがひとつのパッケージになっているのが特徴です。
博多駅周辺にも広がる再開発誘導「博多コネクティッド」
2019年からは天神地区だけでなく、博多駅周辺でも「博多コネクティッド」という施策が進められています。
「博多コネクティッドボーナス」として、周辺へつながる回遊空間、イベントにも使える広場、緑化、ユニバーサルデザインなどを備えるなどの要件を満たすと、
容積率の上乗せやテナントへの優先紹介、市によるPR、地域金融機関の専用融資などが受けられます。
西日本シティビル(「博多コネクティッド」認定案件)
天神が建物のデザイン性や周辺との連続性を重視するのに対し、博多は博多駅の人や賑わいを周辺へ広げる「回遊性・広場」をより重視しているのが違いです。
同じ福岡都心でも、
天神=街の更新と質の高いビルへの建て替え
博多=駅の活力を周辺へ広げる建て替え
とエリアの課題に応じて誘導内容を変えているのが興味深いところですね。
福岡と広島、再開発を取り巻く条件の違い
カミハチクロス
ここまで見ると、「広島でも天神ビッグバンのような政策を行えばいい」と考えたくなりますが、単純な比較はできないでしょう。
まず福岡には、航空法による高さ制限という強い制約がありました。
その緩和によって、これまで使えなかった開発余力を引き出せたという特殊な事情があります。
何よりも大きいのが都市としての需要の違いです。
福岡市は九州最大の経済拠点であり、九州全体やアジアから企業、人、投資を集めています。
規制緩和によって需要そのものを生み出したのではなく、もともと強い需要を受け止める床を供給しやすくしたことを押さえておかなければなりません。
さらに、需要だけでなく、再開発を進める前提となる土地所有の構造にも違いがあるようです。
以前、別の記事にいただいたコメントでは、
福岡は大手地元企業などが都心にまとまった土地を持つ一方、広島は小規模な地権者が多く、複数敷地をまとめるための権利調整や合意形成の難しさも、再開発の進み方に影響しているのではないか、という意見もありました。
とはいえ、広島市にも制度がないわけではありません。
都心の「高度利用型地区計画」では、オープンスペースや商業・業務、ホテル等の導入に応じて、指定容積率を最大200ポイント上乗せできます。
「都市再生特別地区」でも、公共貢献等に応じた容積率緩和が可能です。
企業誘致の面では「広島市企業立地促進補助制度」があり、
対象企業のオフィス賃料を2分の1、年1,000万円を上限に3年間補助します。
広島JPビルディング
「どこを、どのような街へ変えるのか」、「どんな建物を優遇し、完成後にどんな企業を呼ぶのか」。
福岡市はこれを「天神ビッグバン」として分かりやすく示しています。
広島は制度が不足しているというより、個別に存在する制度を一つの戦略として見せる余地が大きいと言った方が正確なのかもしれません。
広島に近いヒントは仙台に
より都市規模の近い仙台市では、2019年から「せんだい都心再構築プロジェクト」を進めています。(2026年には「せんだい都心再構築2036」へ発展)
【仙台市】:せんだい都心再構築2036
特徴的なのは、老朽ビルの建て替えに対して、解体費や解体期間中の固定資産税等を助成するなど、建て替えそのものを直接支援していることです。
さらに、高機能オフィスや研究開発施設、一定水準以上のホテル、MICE施設などを整備する場合には、容積率の緩和や、完成後の固定資産税等に相当する額の助成を実施。
こうした施策を活用したビルへ企業が入居する場合には、企業立地助成も加算されます。
以前整理したように、仙台市は他都市に比べホテルの整備が出遅れており、本制度の設定には、不足する都市機能を明確に定め、その整備に重点的なインセンティブを与える狙いが表れています。
広島市にも容積率緩和や企業立地支援はありますが、仙台のような解体・建て替えへの直接助成や、建物側の支援と入居企業への支援を連動させる仕組みは弱いと言えます。
こうした施策を活用して、「アーバンネット仙台中央ビル」をはじめとする新しい高機能オフィスも実際に完成しています。
福岡ほど巨大な開発需要があるわけではないという点も踏まえると、広島が政策として参考にしやすいのは、むしろ仙台の取り組みかもしれません。
広島で考える「都心再構築」の次の一手
天神ビッグバンを現地で見ると、都市政策が街並みを変える力の大きさを感じます。
九州最大の都市として大きな民間需要があり、航空法による高さ制限緩和という特殊な条件もありました。一方で、福岡や仙台から参考にできる部分はあるはず。
都市再生緊急整備地域の指定時に区域内の「地域整備方針」が設定されています。
【広島市】:都市再生緊急整備地域/特定都市再生緊急整備地域とは
これをご覧いただいて分かる通り、この方針に位置付けられた主要な事業は、多くが既に完了または完了の見通しが立っている状況です。
また、都心まちづくりの方向性を示す「ひろしま都心活性化プラン」も2030年を一つの目標年次としています。
次の方針へ更新する機会に、既存制度と新たな支援を一つの政策パッケージとして再構成してはどうでしょうか。
新たな支援として、特に広島では、小規模な敷地や老朽ビルが多数点在し、複数地権者の合意形成が建て替えの壁になっています。
事実、広島駅南口ではフルフォーカスビルを巻き込んだ一体開発とはならず、個別に2棟のホテルが新築される事になりました。
八丁堀の三越前パーキング周辺では、相生通りに面した小型ビルが複数解体されたものの、狭小敷地での単独建て替えが行われており、都心の小規模敷地をまとめる難しさを示しています。
例えば、老朽建築物を含む複数敷地・複数地権者の共同建て替えを要件として市が認定し、
容積率の上乗せ、解体費・権利調整費の補助、金融支援、入居企業への支援、市による企業誘致などのインセンティブをセットで適用する。共同化そのものを公共的な貢献として評価する仕組みです。
さらに参考にしたいのが「デザイン」です。
天神ビッグバンボーナスは、低層部や公開空地を含むデザイン性、周辺との連続性、緑化などを認定要件にしています。
たかがデザイン、されどデザイン。 印象的でアーティスティックな空間は、それだけで街のシンボルになり、人を歩かせ、滞在させます。ウォーカブルな都市づくりやシビックプライドの面でも極めて重要で、
私自身、現在の広島都心には明確に不足している要素であるとまで感じています。
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福岡のように強い需要を規制緩和で受け止めるだけでなく、広島では「まとめれば建てやすい」、「建てれば埋めやすい」、そして「歩きたくなる、誇りを持てる街」をつくるところまで政策に組み込む。
行政が都心のアップデートへの姿勢を分かりやすく示す「広島版の都心再構築プロジェクト」があってもよいのではないでしょうか。
コメント欄は後日開放する予定です。

















