広島電鉄、電車運賃値上げを申請 市内線は180円に

すでに報じられ、またコメントでも議論頂いているとおりですが、
広島電鉄は、路面電車のサービス向上計画の概要とともに、運賃を値上げする意向であることを公表しました。
電車運賃の値上げはすでに中国運輸局に申請を済ませており、
認可されれば今年の8月から変更されることになります。

値上げ額は20円としており、
市内線は180円、白島線は130円、
宮島線内でも区間運賃が20円ずつ高くなります。

【広島電鉄】:報道資料「電車運賃の上限変更認可申請について」


(上記資料より)

事前にマスコミ等から出てくることもなく、いきなり運輸局に申請したことが明かされたのでこれは驚きました。
消費税が8%になった2014年以来の値上げになりますね。

資料によると値上げの理由については、
①輸送人員の減少
②車両、電停施設のバリアフリー化、情報提供システムの整備などハード・ソフト面での利便性の向上
③2018年3月を予定する全国相互利用ICカードへの対応
④定年退職者増加により計画的な職員の採用に伴う人件費の増加

などが挙げられています。

②、③のハード整備及びソフト対策については、別途具体的に計画が記されており、
以下の内容が明らかになりました。

以下は資料の内容そのままですので、2枚目の写真の下まで読み飛ばしていただいても結構です。

 

超低床車両の導入

  • 老朽化した車両の代替として、2019年度までに宮島線で6編成、市内線で4編成を新たに導入
  • 導入後は5連接車両は28編成、3連接車両は14編成の体制となり、経年50年を過ぎた車両35両を更新。

   

 

駅・電停の整備

  • 新たに7箇所で、電停のホーム拡幅や上屋の延長などのバリアフリー化を実施。

 

車掌台運賃箱の更新

  • 連接車27編成の車掌台の運賃箱をICカードのチャージが可能なものに更新。
  • 車内でのチャージ可能箇所は2箇所→4箇所に。

 

【ICカード】全国相互利用ICカードへの対応

  • 2018年3月を予定する10カード(Suica、PASMOなど)への対応。
広島県内のJRを除く交通機関で使用できるICカード「PASPY」は、2008年にサービスを開始し、広島電鉄やアストラムライン、各種路線バスなどで利用されています。 これまでP

 

【ICカード】IC共通定期券の導入

  • 電車路線に並行するバス路線について、事業者を超えて共通で利用できる定期券の発売。

 

【ICカード】ICカード利用者全扉乗降化工事の実施

  • これまで乗車専用だった中扉にICカード降車読取機を設置。(部分的な信用乗車方式)

 

運賃値上げに際して実施される広島電鉄の取り組みは以上のとおりです。
ハード整備としては超低床車両のさらなる導入に電停のバリアフリー化が進められます。
今回は宮島線で使用する5連接車両の投入は約10年ぶりになります。
平成30年代半ばの完成を目指す駅前大橋線では、路面電車はスロープを通って広島駅の2階に乗り入れることになります。
老朽化した電車の中には登坂能力で対応できない車両もあり、これも車両更新を急ぐ理由の一つかと思います。

一方ソフト面では、主に運賃収受面での取り組みが目立ちます。
全国相互利用ICカードへの対応は以前報道された通りですが、
ICカード定期券の事業者間利用や、ICカード利用者に限る信用乗車の実施が明言されたのは興味深いです。
利便性の向上や乗降にかかる時間の短縮に繋がる柔軟な対策です。

 

では、この値上げに納得できるかどうか。
私は五分五分で賛成であり反対ですね。

広島電鉄の前社長の越智氏は、向こう15年で40両の超低床車両を導入し老朽化した車両を置き換える構想を打ち出しました。
その他市内線、宮島線の運賃の均一化といった構想もありました。
駅前大橋線については地下乗り入れを支持。
その後、「独善的な経営」だったとして2013年1月の取締役会で社長を解任されています。

遅かれ早かれ莫大な数を誇る車両の更新に、運賃の値上げは必要になりました。(それだけではないですが)
全国から譲渡された車両が現役で走る「路面電車の博物館」などと言われていますが、
実情としてはバリアフリーの観点、乗客の快適性から、それらの車両更新は積極的に行っていくべきだと思います。

とは言え、値上げによって広島駅~紙屋町間は、
路面電車の運賃に合わせて設定されている他社路線バスの方が安い状況となります。(160円)
ピーク時はほとんど変わりませんが、オフピーク時は紙屋町までバスのほうが早く着きます。
料金もバスのほうが安いとなると、これまでの優位性が大きく変わりますね。

 

広電の一番の課題は紛れもなく「速達性」です。
これは路面電車の表定速度の推移を表したグラフです。


(広島市公共交通網形成計画)

平成22年時点で、ピーク時の表定速度(平均速度)は10km/hを切っている状況です。
自転車より、下手したら歩くより遅い状況があります。
何十年も前からの課題ですが改善の兆しが見られない極めて深刻な状況にあると思います。

 

ただしこれは、一概に運行する広島電鉄だけの責任とは言い切れません。

駅前大橋線の整備一つをとっても、高架橋の建設は自治体である広島市。
廃止予定だった電停周辺の住民説明も、電車循環線を代替案として提唱したのも広島市です。

私鉄であるとはいえ、交通機関とは非常に公共性の高いもので、行政が関与するのは当然のことです。

広島市は今年度、市内の交通体系について総合的に検討を行った「広島市地域公共交通網形成計画」をまとめ、公開しました。

【広島市】:広島市地域公共交通網形成計画(15MB)(PDF文書)

(上記資料より)

基本的な考え方として、交通機関を機能ごとに階層に分けた公共交通ネットワークを定義しています。

この中で、最も速達性、大量輸送性、定時性を重視するのは、
基幹公共交通ネットワークとして定義されるのはJR、アストラムライン、宮島線、基幹バスなど。
路面電車市内線は「デルタ内準基幹公共交通ネットワーク」に分類されています。
レールの整備に左右されないバスは、基幹バスとして都心と外縁部の拠点地区を結ぶ
速達性・定時性のある交通機関に設定されました。

 

路面電車はレールのある場所しか走れません。
しかし幸いなことに、広島では軌道敷内の自動車の走行は禁止されており、
たとえ車道が渋滞していても影響を受けることなく走行することができます。

自動車交通の影響を受けるバスと比較して、“本来であれば”
速達性・定時性に対して有利なのは路面電車であるはずです。

現状のような、隣の電停が1ブロック先というような、細やかすぎるとも言えるサービスは柔軟で機動力のあるバス事業で対応し、
路面電車は少なくともメインストリートで広島のCBD(中心業務地区)である八丁堀、紙屋町、市役所前を結ぶ区間は、
電停間500m程度のデルタ内中距離輸送機関として、交通体系を整理するべきです。

具体的には電停の統廃合矢印信号を用いた柔軟な優先信号の整備
そして路面電車同士で渋滞してしまうことを防ぐ系統の整理も必要ではないかと思います。

 

基本計画には路面電車について、駅前大橋線やそれに伴う循環ルート、優先信号などについての記載がありますが、
現状では広島市から駅前大橋線以外の施策(電停統廃合、観音クランク解消など)について動きがありません。
このような状況で値上げに踏み切れば客離れを招き利用低迷という悪循環に陥る可能性もあります。

 

広電だけに対して言うのも酷だとは分かっていますが、
値上げを行うのであれば、取組内容と合わせて具体的に「○分短縮!」というような数値目標を示してほしいです。
これまで書いたように公共交通は行政が責任をもつことでもあるので、
「広島市地域公共交通網形成計画」に是非とも数値目標を記載すべきだったと思います。

 

地下鉄に関してたくさんのご議論を頂いておりますが、
バブル期にすらできなかった地下鉄を今から建設するのは現実的に考えて不可能かと思います。
シールド工法は一般的な開削工法に比べお金が掛かります。技術的な問題ではなくコストの問題です。

少子高齢化による福祉関連の予算の増大に加え、既存ストックの維持管理もますます増えます。
建設関係では今後はアストラムラインの西風新都線も始まります。
個人的にアストラムラインの延伸には大い疑問はありますし、整備の優先順位が違うと思っていますが、
すでに決まってしまったことなのですよね。残念ながら。

広島駅~本通りを結ぶ都心路線(東西線・南北線)は放棄されました。

広島市は1999年に立ち上げたアストラムラインの延伸計画について、 投資効果が薄いとされた東西線と南北線の一部を廃案にすることが分かりました。   【中国新聞】:アストラム延伸は一

仮に広島駅と紙屋町を結ぶ路線があったとしても、コメントで頂いていた通り、
広島駅での乗り継ぎ時間や地下と地上を行き来する時間で結局あまり変わらないという事態もありえます。

駅前大橋線もなく信用乗車も行っていない現状と比較するなら、地下で乗り継ぎをしてでも確実に目的地に早く着きそうですが。。

路面電車の部分的な立体交差であれば十分検討する余地はあると思います。
平和大通りや国道2号線交差部など。

 

 

記事にするのがあまりにも遅くなったため、別の記事でたくさんの議論を頂きましたが、
これだけあれほど多くの市民県民が、現在の都心部の公共交通に対して不満や危機感を持っていることを改めて知ることができました。

陳情書として市長に提出したいくらいです(笑)

 

中心部では定時性の確保された公共交通機関が無いため、企業や買い物目的で自動車の流入が増加し
公共交通の運行を妨げる悪循環に陥っている状況。
経済的な損失は年単位でみると計り知れません。

この値上げが、多くの一般市民が現状に気づき交通網が変わるきっかけになればいいのですが。

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