6月9日に中国新聞に久々に駅前大橋線の文字が踊りました。
その内容は非常に驚くべきものでした。
広島電鉄は駅前大橋線の区間を、架線を使用しない運転、いわゆる「架線レス」方式を検討していることが分かりました。
既存車両にバッテリーを搭載することで架線レス化を実現したい考えで、
クモの巣状の架線が無くなることによる景観向上に加え、架線の維持管理の負担軽減も見込んでいるようです。
【中国新聞】:「架線レス」方式を検討
クモの巣状に張り巡らされる路面電車の架線(2017年5月撮影)
目を疑いました(笑) 以下にまとめてみます。
- 架線からの電力供給がなくても動くように、既存車両にバッテリーを搭載
- 駅前大橋線(広島駅~稲荷町間の0.6km)の区間で実施。他の区間は従来通り
- 鉄道総合技術研究所(東京)と共同開発を進める
- 小型でパワーの大きいバッテリーがなく、具体的な車両設計はこれから
- 架線レス化は景観だけでなく、夜間に行う架線張り替えの作業コストや災害等で支柱が倒れるリスクを解消でき、利点は大きい
- 構想段階の平和大通り線(西観音町~白神社交差点の1.8km)を架線レスにする案もある
- 平和大通り線は過去に反対もあったが、「架線レスなら景観を損なわず賛同が得られやすいのではないか」(社長)
架線レス化は軌道や電停の改良とは異なり、根本的に乗り入れる既存車両すべてに対して改良が必要になります。
日本一の車両保有数を誇る広電の場合、実現のための初期投資がとてつもないものになることは想像に難くないです。
予想外の記事に、”どうせ長期的なビジョンであって、実現するかどうかは分からないような内容では?”と思ったのですが、記事を読むと意外と具体的なところまで書いてあるので驚きます。
個人的にはそれよりも優先順位は定時性向上に繋がる施策を…と思ってしまします。
架線を設置しないことで維持管理のコストを抑えられるという点は、その通りかと思いますが、
架線レス化のための改修費(開発・設計・車両改修)と相殺できるレベルなのかは疑問です。
巨大地震はいつ起こるか分かりませんし、長い目で見ると確かに馬鹿にできないコストなのかもしれません。
以上を踏まえて架線レス化に対して懸念すべきだと思うのが、バッテリーを搭載することによる車内空間の減少です。
広島駅~紙屋町間は、ただでさえ乗車率が非常に高く輸送力の不足している中で、車内のスペースをバッテリーに取られてしまっては、ますます乗車率が上がり定時運行が難しくなる可能性もあります。
記事には「すぐ採用できる小型でパワーの大きいバッテリーがない」と書かれています。
対象区間は広島駅~稲荷町間のわずか600m程度です。
さらに広島駅には高架で乗り入れる計画であるため、逆に広島駅を出発するとあとはほとんど下り坂になります。
こういったことからも、そこまで大きな容量でなくても良いという考えなのかと思います。
平和大通り線を含め将来的に他の区間でも部分的に架線レス化することがある場合、
主要な電停にのみ鋼体架線を整備し停車時に給電(充電)できるようにするのがバッテリーを大型化する必要がないので理想的かと思います。
記事にかかれている通り、台湾で新規開業したLRTは電停で停車時に充電する方式で、架線レストラムが実現しました。
改めて「架線レス化」が検討される駅前大橋線の予定地を。
駅前通りには「駅前大橋南詰交差点」と「稲荷町交差点」の2つの大きな交差点がありますが、
10車線+植樹のある中央分離帯がある車線構成のため、幅員が非常に広くなっており
交差点の面積もかなり大きなものになっています。
通常の軌道部分はセンターポール化し美しくできますが、交差点はどうしても歩道に設置した支柱から架線を張り巡らさなければなりません。
あの広大な駅前大橋南詰交差点に架線を張ると、かなり酷い景観になりますよ。確かに。
と言うか、あれだけ傾斜した広い交差点で、自動車の交通に支障をきたさず、安定して電力が給電できるように架線を張ることがそもそも可能なのか?
今まで考えていなかった視点でした。
記事中の社長の説明で、西観音町~白神社交差点の平和大通り線についても、「過去には建設への反対意見もあったが、架線を張らない方式なら景観を損なわず、賛同を得られやすいのではないか」と話しています。
平和公園の南側を通ることから、”景観を損なう”として当時の商工会議所会頭や平和団体から反対されたことも、平和大通りが実現しない要因の一つとなっています。
これについては、、、
そもそも架線の有り無しを抜きにしても、巨大な高架橋を建設するわけではありません。
誰でも利用しやすく環境に優しい公共交通が一部団体の主張ではなく、純粋な費用対効果で検討されるべきだと思っています。まあ、実現への近道は敵対ではなく根回しですからね。説得材料の一つになればいいです。
架線・架線柱の維持管理費の抑制、駅前通りの景観の維持など、必要性については理解しました。
課題はもちろんバッテリートラムに改修するためのコストです。
広島電鉄は、今年8月1日から市内線の料金を180円に値上げすることが決まりました。
最大の課題である定時性・速達性の向上には、広電だけではなく行政(=広島市)や警察の協力が不可欠です。
その前に広電単独でできる施策として、こういった先進的な検討がなされることは大きく評価したいです。
【広島電鉄】:電車運賃の認可及び運賃改定の実施について
架線レス。「あの広電さんが…」と驚くような内容ですが、実現すれば全国から注目されることは間違いありません。
それでなくても、国内では初めて路面電車が2階に高架で乗り入れる構造になることが決まっています。
駅前大橋線の整備、駅ビルの建て替えなどを含む「広島駅南口広場の再整備」は、平成30年代半ば(2023年前後)の完成を見込んでいます。
開発期間はかなり限られます。
「架線レス化」はあくまで手段の一つであって、これが目的化しすぎないように行方を見守りたいです。
【封入体筋炎患者闘病記】:広島の都市交通 広電の話題 2 駅前大橋線とその他