広島電鉄は5月13日、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を踏まえ見直された、
中期経営計画「広電グループ経営総合3カ年計画2022」を公表しました。
感染対策の基本となる人の移動の抑制は運輸業にとって死活問題であり、
見直しされたされた計画の中でも非常に厳しい現実が記載されています。
同じ日の中国新聞のインタビューで広島電鉄の椋田社長は、
維持管理費が高いとして広島県内の電車やバスで利用できるICカード「PASPY(パスピー)」の将来的な廃止を検討していることを明らかにしました。
廃止後はスマートフォンを使ったQRコードでの支払いに移行したいと話しています。
信じがたい報道に見出しを読んだ時はイスから転げ落ちるかと思いました。
改めて私の考えをまとめます。
【中国新聞】:パスピー将来的廃止検討 広電社長、コスト高指摘
広島電鉄(広島市中区)の椋田昌夫社長は13日、同社の電車やバスなどで利用できるカード型IC乗車券PASPY(パスピー)の将来的な廃止を検討していると明らかにした。維持管理のコストが高いため、スマートフォンを使ったQRコードでの支払いに移行したい考えを説明した。
(中略)
中区での決算会見で椋田社長は「ICカード方式はハードとソフト(の経費)が非常に高い。QRコードの方がキャッシュレスの時代に合っている」と強調。他の加盟社と議論を進めていることも明らかにした。ただ、QRコード支払いへの移行は加盟社によって意見が異なるとみられ、乗客への影響も考慮する必要があるため調整には時間を要する可能性もある。
(上記中国新聞HPより一部使用)
何てことを言ってるんでしょうか。
PASPYの廃止、絶対にすべきではありません。
考え直しをお願いします。
目次
パスピーを絶対に廃止すべきでない理由
地域独自のICカードとして極めて高い普及率
2008年から順次広島県内のJRを除く交通機関で導入されたICカード「PASPY(パスピー)」は、
2019年時点で累計発行枚数190万枚に上ります。
広島県の人口が約280万人として、県民の2人に1人が持っていることになります。
JR北海道が発行する「Kitaca」が昨年の時点で176万枚だそうなので、それよりも発行枚数は多いことになります。
(【2020年版】鉄道系ICカード発行枚数ランキング!今年はJR九州がJR東海を抜きさる! – 鉄道ファンのクレジットカードのりば)
ICカードの維持管理コストの高さは広島だけでなく全国でも課題となっているのは理解しておりますが、
だからといってこれだけ県民に普及したICカードの廃止検討に至るのは全く理解できません。
今回、広島電鉄の社長として廃止の検討を口にした形ですが、PASPYは広島電鉄だけでなく県内のあらゆる交通会社で利用できます。
パスピー協会の正会員であり事務局を務める広電がパスピーネットワークから抜けるとなれば、県内で乗車券の種類が別れることになりますし、そもそもパスピー自体の存続も危ぶまれます。
PASPYへの初期投資も行われているはずで、利用者の利便性のためになんとかPASPYを導入した事業者があまりにも気の毒です。
何より利用者にとって煩わしいことこの上ないです。
広島観光でもあなたの街のICカードが使えるという安心
2018年からは全国相互利用ICカードに対応し、
SuicaやPASMO等の10カードが、PASPYのエリアでも使えるようになりました。
地元民の利便性もさることながら、ICカードにこだわる理由はここが大きいです。
観光やビジネスで初めて訪れた街の公共交通機関(特に路面電車やバスのようにきっぷ制ではないもの)を利用する時に、
普段自分が使っているICカードがそのまま利用できることが、どれほど安心なことか。
社長はじめ、経営陣は分かっているのでしょうか。
県外から広島に訪れる方々の街歩きの利便性に、10カード対応は非常に大きく貢献していると思います。
磁気カードやQRコードでは得られない利便性がある
当然、日常的に利用する地元民にとってもICカードが使える環境は非常に重要です。
ICカードの代わりとして、スマートフォンなどを使ったQRコード決済をお考えのようですが、
”裏表を気にせず、財布やスマホケースに入れたまま高速に通過できる”ICカードに比べ、
”取り出してコード画面を開いて必ずその面をかざさなければならない”QRコードは、時間がかかることは必須。
利便性も大幅に損なわれます。
特に表定速度の遅さが課題になっている路面電車やバスがQRになってしまうと、さらに所要時間が増す要因が増えます。
ありえません。
JR東日本の高輪ゲートウェイ駅で、実証実験としてQRコード対応の改札機が設置されるなど、きっぷのQRへ向けた動きはありますが、
全国の交通系きっぷが10年やそこらでQRに置き換わるはずはなく、時期尚早です。
あれはむしろ磁気きっぷを置き換えるためのQRコードであり、ICカードの置き換えなどJR東日本は想定していませんし。
広電において、車内での現金精算を廃止して電停でQRコードを発行して、ということなら一考の価値はありますが…。
ICカードのメリットは決済スピードはもちろん、利用者のビッグデータの収集ができることも大きいです。
PASPYに紐付いた利用者の属性がOD(出発地と目的地)とともに集計できるため、より詳細なニーズの把握が可能であることです。
これを分析することにより、広島都市圏における路線の統合や共同運行(運賃のプール)が可能になりました。
今後もPASPYに加盟している事業者で公平に利用者ニーズを分析し、
より効率性と利便性の高い公共交通サービスを目指すとなるべきところ、
廃止を検討となるのが非常に残念です。
それほど公共交通事業者はコロナで切羽詰まっているということなのかもしれませんが。
廃止の前に割引率の見直しを
発行枚数190万枚のPASPY。幼児や高齢者を除くとかなりの普及率となっていることが予想でき、新規発行枚数・加入者数が頭打ちになっているのは事実かと思います。
県の人口も今後は減少が加速するので、仕組みを維持していくためにも何らかの見直しは必要です。(廃止以外で)
まずは現状の割引率の見直しを検討すべきではないかと思います。
現行制度では、通常運賃の1割引で乗ることができます。
とは言っても小数点は切り捨てられるので、バスや路面電車の一区間190円の場合は、割引後180円となります。
以下、分かりやすいように通常運賃190円区間を例えにします。
1回の利用でも通常190円のところ割引を受けて180円の支払い。180÷190で0.947。実質およそ5%オフ。
10回利用すれば、通常1900円のところ割引を受けて1800円だけ支払うことになりますね。
1800÷1900で0.947。やはり実質およそ5%オフです。
(1割引後の1の位が切り捨てられる関係で、通常運賃の10の位が大きければ大きいほど割引率は下がってしまうんですよね。)
私案ですが、現行の”乗車のたびに”割引が受けられる制度を変えて、一定の回数公共交通を利用した後、その金額に応じた割引を付与するのはどうでしょう。
例えば、累計利用料金が2000円に達するたびに、次回料金が100円引きになるようにすれば、
1900÷2000で0.950。こちらも実質5%オフですが、僅かながら割引率は低く(=利益が残る)
利用者にとっては、積極的に利用しなければこれまでと同じ割引が受けられないので、利用促進にも繋がるのではと考えます。
最後の私案については少し乱暴ですかね。
実質値上げに繋がる区間もありそうですし、全区間トータルで見て、実質5%割引が妥当なのかどうかは我々には分かりません。
とにかく廃止は県民にも来訪者にもデメリットが大きすぎるため、なんとか考え直してほしい。コレに尽きます。。
”将来的な廃止を検討”との報道なので、色々な意見を聞いてもらって、
ぜひ考え直していただけたらと思います。