2023年8月、栃木県宇都宮市及び芳賀町に「宇都宮ライトレール」が開業しました。
マイカーやバスによる交通渋滞が社会問題となっていた宇都宮市は、
対策となる新たな基幹交通手段として、バス以上の輸送力と、定時性・速達性に優れる次世代路面電車(LRT=Light Rail Transit)を選定。
宇都宮駅東口から本田技研工業の工場が集積する芳賀・高根沢工業団地までの約14.6kmに、
新たに軌道敷を整備して誕生しました。
これまで路面電車が走っていない地域に、LRTとして新たに開業する国内初のLRTとなります。
2024年のGWを利用して、初めて宇都宮を訪れてきました
【公式】:宇都宮ライトレール
密集した市街地を抜けるLRT
JR宇都宮駅です。
駅は在来線が1階、新幹線が3階に配置され、2階レベルに東西自由通路が通る一般的な構造です。
東口は2022年11月に開業した再開発施設「ライトキューブ宇都宮」が隣接しており、
自由通路からそのまま2階レベルにイベント等が開催できる広場が繋がっています。
ライトレールの宇都宮駅電停もこの再開発区域に接しており、
自由通路から階段を降りてのりばへ向かいます。
■宇都宮芳賀ライトレール線 宇都宮駅東口
HU300形(愛称:ライトライン)
全長は広電のグリーンムーバーシリーズと同規模で約30m。
3連接車体のHU300形と初対面しました!
雷の多い宇都宮をモチーフにした黄色のアクセントがとてもカッコいいです。
路線は宇都宮駅を出て、鬼怒通りをまっすぐ東に進みます。
これが、日本で始めて本格的なLRTを”新設”した先進的な町並みです。
宇都宮駅を出発し、再開発ビル「ライトキューブ宇都宮」の脇を抜け、市街地を走り出す宇都宮ライトレール。
鬼怒通りの特徴をいくつか。
軌道の上下線の間には、交差点を除く大部分でフェンスが設置されており、
自動車の横断による運行阻害が発生しづらくなっています。
こういったところも「路面電車」ではなく「LRT」たる証です。
さらに東へ。
国道4号宇都宮バイパスと交わる峰交差点は2車線の車道とともにオーバーパスします。
喉から手が出るほどほしい交差点の立体交差。
驚きなのはもともと自動車用の橋梁として供用されていたこと。
路面電車が通行しても支障がないことを確認し、転用されたようです。
交通量の多い直轄国道との交差点ですから、立体化の恩恵は計り知れません。
専用橋・快速退避設備など高規格目立つ郊外部
そのまま東に向けて進みます。
複合商業施設「ベルモール」の最寄り駅となる「宇都宮大学陽東キャンパス」電停では、老若男女多くの人が乗降します。
そこを過ぎると沿線の風景は緑が増し、郊外に入っていきます。
これまで走ってきた鬼怒通りを立体交差する専用橋で次の電停に向かいます。
何度も信号待ちをすることなく非常にスムーズ。
鉄道線にも見えますが、扱いは軌道法に基づいて整備された併用軌道です。
次の電停「平石電停」。
路面電車の途中駅とは思えない、2面4線のターミナル駅です。
宇都宮ライトレールでは朝ピークの時間帯に快速運転をする列車が設定されています。
快速列車が停車する平石では緩急接続、追い越しができるようこのような大規模な設備となっています。
次の目的地は、一級河川の鬼怒川を渡る643mの長大な専用橋を渡り「飛山城跡」へ向かいます。
盛土や橋梁など、鉄道と遜色ない設備です。
現状は軌道法に則り、法で定められる最高速度40km/hでの運転ですが、
将来的には最高速度の引き上げを視野に入れています。
先ほどの「平石」もそうですが、自家用車や路線バスとスムーズに乗り換えられる「トランジットセンター」に指定されています。
奥はパークアンドライドの駐車場ですね。
堅調に利用されているように見えました。
終点の一つ手前、「かしの森公園」電停付近。
ここに限らず、電停のある交差点はほとんど矢印信号機で運用されており、
LRT車両が通る間は左折直進のみ。右折車とLRTとの接触リスクを低下させています。
手前の「芳賀町工業団地管理センター前」との間は丘陵地帯になっており、勾配を登り降りするLRTを眺める事ができます。
ゆとりある車内
車内の様子を少し。
車輪部分は4人がけの独立したボックスシートになっています。
広電のグリーンムーバーは1.5人がけのシートにしている箇所です。
新潟トランシス製の車両は台車周りがコンパクトなようです。
ただし前後の間隔は狭く、大人が向かい合って4人座るのは少し難しく感じました。
優先席は立ち上がりやすいようレール方向に配置。
各所に広告を放映するためのワイドLCDが設置されています。
ドア上にも電停案内用の小型ワイドLCDが設置されており、日本最先端のLRTに相応しいスペックです。
車椅子スペースも十分取られており、車内はかなりゆとりを感じました。
上記のような座席配置のため、着席定員は広電より少なめです。
●編成定員
・宇都宮ライトレール HU300形:160人(着席50人)
・広島電鉄 5200形:151人(着席58人)
全区間ワンマン運転をしており、ICカード利用者であれば全扉から乗降できます。
10カード対応。ワンマンてすが、全ての扉から乗降できます。 pic.twitter.com/RG9NbR3SAZ
— 鯉党α(アンドビルド広島) (@abhiroshima) April 27, 2024
ICカードの読み取り機のデザインも非常にスマートですね。
ドアの配置は左右対称です。
ドア周辺が広くなることで乗降がスムーズです。
電停が左右どちら側でも対応できるため、
交差点の形状に応じて変更も可能ですし、緩急接続ができる2面4線の電停も実現できます。
運用の柔軟性が高まるのもメリットです。
あとがき
国内で初めて新設の次世代型路面電車が走り始めました。
安定感のある乗り心地や乗り降りのしやすさ、サインの分かりやすさに感心しました。
広島を含め、既存の路面電車のシステムを動かしながら変えていくのに対し、
ゼロスタートで明確なビジョンを持って、予算をかけるべきところにしっかり掛けた結果、
ハード面はかなり理想に近いシステムになっているのではないかと思います。
国内におけるLRTのトップランナーは、間違いなく宇都宮になったと感じますね。
沿線自治体及び宇都宮ライトレールはさらに、路面電車運行上の基礎となっている軌道法の「最高速度40km/h」、「車体の全長30m以下」という制約についても、
特例を得て引き上げることを視野に入れており、
車両や軌道設備もそれに対応した構造となっています。
LRT車両の接近に合わせて信号を調整するPTPSのような優先信号は現時点では導入されていません。
運行時間短縮の伸びしろとも言えそうです。
本来こうした動きは、日本一の規模を誇る広島が先頭に立って働きかけを行うべきものだったと思います。
運行事業者の広電は、宇都宮ライトレールの開業にあたって、乗務員の養成などで協力してきました。
今後も情報交換を続けていただき、路面電車が走る自治体が協力して
時代にふさわしい路面電車が走る世の中になってほしいと願います。
ちなみに、LRTを運行する宇都宮ライトレール株式会社は、開業初年度となった23年度の決算を黒字で着地させました。
次年度も最終黒字を見込んでいるとのこと。
LRTは今後、大都市はもちろん、大きな事業所のある中核都市などでますます注目を集めるのではないでしょうか。
【Yahooニュース】:LRT開業初年度、5700万円の黒字 運賃収入は7億円超 23年度決算公表(下野新聞SOON)
宿泊したホテルは、宇都宮駅直結の「カンデオホテルズ宇都宮」。
落ち着いたインテリアに開放的な露天風呂など、満足度の高いホテルでした。