ブロガーコラボ企画 『広島電鉄』路面電車のこれからを考える(続) 信号待ち時間削減の提案

先日、同じ広島ブロガーのヒロさん(封入体筋炎患者闘病記)、らっちさん(広島・都市創生会議)にお声掛けいただき、
同じテーマの記事を投稿するコラボ企画を行いました。

「広島電鉄」をテーマとしたわけですが、更新が間に合わず途中段階での更新となってしまいました。。
企画いただいたお二方には申し訳ないことをしたと思っています。

実は精神的な不調もありました…。改めてこの記事で完結させたいと思います。

以下はお二方の記事です。

【封入体筋炎患者闘病記(ヒロさん)】:【ブロガーコラボ企画  広電について色々と】

【広島・都市創生会議(らっちさん) 】:【ブロガーコラボ企画】広島電鉄の今後を考える

 

で、途中段階のわたしの前回の記事。

コロナ渦の中のゴールデンウィーク、皆様いかがお過ごしでしょうか。 思えば令和になりたての東京の皇居、そして仙台への出張取材に行ったのが1年前のゴールデンウィークでした。 今

速達性と定時性の課題を補う対策

基本的な対策として私が期待しているのが、前回の記事、これまでの記事でも書いているように「公共交通優先信号の強化・拡大」です。
優先信号の度合いこそが、欧州の都市を走る本格的なLRTと広電が違うところだとも思っています。

現状の路面電車の運行において、運行時間全体の約3割を占める「信号待ち時間」が改善・解消されれば、駅前大橋線の整備と合わせて、大きな改善が見込めます。

【広島市】:広島市地域公共交通網形成計画(15MB)(PDF文書)

(上記広島市資料より)

 

とはいえ、当然ながら路面電車(公共交通)優先のシステムを作るということは、それ以外の一般の道路交通の渋滞要因となるなど、大きな影響を与えることになります。
広島駅~紙屋町間、紙屋町~広島港間には、現状で最大4系統が一本の線路に乗り入れており、
運行する全ての列車に対して完璧な優先システムを構築しようとすると、一般道路交通への負荷はかなり大きなものなるため、まず、信号を管轄する警察が許可しないでしょう。


路面電車路線図(広島電鉄HPより)

 

そのため、「優先信号強化・拡大」による信号待ち時間の削減を最終的な目的とする、
対策プランを考えなくてはなりません。

以下のような提案をします。


信号待ち時間短縮のための対策案(管理人作成)

 

① 系統の見直し
広島駅からの本線上に現状で最大4系統が乗り入れていると先ほど書きました。
2025年には、駅前大橋線の整備、電停の一部廃止に合わせて、市内循環線の設定も予定されています。
減らしたい方向なのに、新たな路線を設定しようとしている…

ただし、これについては広電としても対策を考えているようで、以前、6号(広島駅~江波)の減便が検討されていることが報じられました。

コメントで教えていただきました。ありがとうございます。 広島電鉄は、市内中心部のデルタ内を走る路面電車とバスの運賃を、 時間区切りで均一にする新しい料金体系の検討を始めた事

昨年10月から、ICカード利用者における再乗車サービスが開始され、全電停乗り換えが可能になりました。(乗り換え時間も30分→60分に緩和)
乗り換えのハードルが下がっていますし、速達性・定時性向上という運行サービスの底上げのため、6号の減便(または廃止)は検討していくべきと考えます。

そのカバー策として考えられるのが、循環線を1周する前に江波行に化けさせる(大阪環状線方式)ことです。
都心を通過する循環線と江波線を統合させることで、「舟入・江波地区⇔都心」のサービスはカバーできます。
「舟入・江波地区⇔広島駅」については循環線ではカバーできないため、広島南道路を活用した、観音-江波-吉島-広島港-広島駅のバス路線を新設します。

 

② 運行本数の抑制
①の系統そのものの削減、統廃合に対し、系統別にも運行本数を削減します。
そのまま減らしただけでは、ただでさえ不足気味の輸送力がさらに低下することになるため、
1編成あたりの乗車定員を増やします。
現状の5連接の車両を7連接化改良を提案します。
超低床車両の「グリーンムーバー」シリーズは、3種類のユニットを用いたモジュール構造になっており、「グリーンムーバーLEX」では中間のC/D車、E車を省略した3連接の車両になりました。
減らすことができるのなら、同じように増やすことも構造的には可能なはずです。

ただし、日本の「軌道法」では、路面電車の全長は最大30mと定められており、実現にはこの法律の改正が大前提になります。
戦前・戦後から走っている路面電車を対象にする法律です。現代では国内外で路面電車が見直され、宇都宮を始め次世代型路面電車が新設される事例も出てきました。
広島市以外の首長と連携して、国に法改正を働きかけるべきです。

【東洋経済オンライン】:路面電車「次世代型」でも法律は旧態依然だ 車両の長さや速度の制限、再検討の必要は (以下、一部抜粋)

 車両長にも制限がなされており、車両を連結して運転するときには全長30m以下とされている(軌道運転規則第46条)。他の車両の円滑な道路交通確保の要請と、路面電車は大型車両を予定していないという前提によるものと思われる。

 車両の制動装置の性能は昔に比べて向上している。電磁吸着ブレーキ(レールに電磁石を吸着させて制動力を得るもの)などの緊急ブレーキにより非常時の制動距離は短縮可能であり、他の安全確保措置の併用も含め速度制限の当否は再検討されてもよい。

「次世代型」という冠が示すとおり、LRTは「昔ながらの路面電車復権」というよりも成熟社会を迎えた社会における「新交通機関」という位置づけである。LRTの整備にあたっては、車両や施設の改良、他社線との連携の仕方などを含め、新たな「街づくり」の構成要素である公共交通機関としての役割をどのように持たせるか、そのためにはLRTを取り巻く規制が妥当かどうか再検討をしていく視点が必要である。

軌道法が本来想定していた路面電車を超えて、モノレールなどにも適用されるようになっている状況を考えると、道路のあり方や旧来からのカタカナ表記のままの軌道法や、それに関連する各種法令の再検討、再編成もなされるべきと考える。

 

③ 信号制御の高度化
優先信号システムそのものに関する内容です。公共交通優先信号システムとして現在も一部交差点で用いられているのが「PTPS」というシステムです。
比較的以前からあるシステムで、電柱などに設けられた光ビーコンが路面電車の通過を読み取り、次の信号を制御するというものです。
設置間隔には限りがあるため、より柔軟で精密な制御をしようとすると限界があるのではないかと考えます。
今年からは5Gの商用サービスも開始されましたし、車両のGPSと組み合わせて制御できるシステムの構築も必要ではないでしょうか。

また、紙屋町東・西電停などの路線が分岐する交差点では、車両の停止位置により架線に設置した「トロリーコンタクター」を用いて行先を判定し、線路のポイントが切り替わっています。
一定時間内におけるトロコンを叩く回数で行先を判定する仕組みゆえ、無駄な時間が多く時代に即しているとも言い難いです。「信号待ち時間」にはこうした先行電車が退けるまでの時間も含まれるため、こうした信号制御システムの高度化も必須と考えられます。

地元産学官で連携してシステムが構築できれば一番良いですが、他の都市の成功事例があれば積極的に採用する姿勢も必要でしょう。

 

以上が私の「信号待ち時間の削減」に関する提案内容になります。

 

 

所要時間短縮の「目に見える」効果など

ここからは参考になりますが、
「実際に運行の所要時間が短縮されればどのくらい効果(好影響)が出るのか」ということについて、超簡易的な分析をしてみました。
設定条件によって大きく変わるところなので、あくまで参考程度にご覧いただければと思います。

「等時間到達可能範囲」という考え方を用いることにします。

広島駅から路面電車+徒歩を利用して15分以内に移動できる範囲を電停ごとに描いていきます。
下記の政府のサイトを使って、その範囲に含まれる就業者人数を集計しました。

【e-Stat 政府統計の総合窓口】:地図で見る統計(統計GIS)

 

以下は電停までの乗車時間と、電停からの徒歩時間です。
完全な私個人の設定値(仮定)であるため、あくまで「こうだった場合の参考値」として見ていただければと思います。

 

駅前大橋線を整備しただけの状態では紙屋町までの所要時間4分短縮が、市で想定されています。
短絡区間である稲荷町までで4分短縮を想定しました。
「優先信号フル整備」では、現状の信号待ち時間(約30%)が解消されることを想定し、乗車時間を30%削減します。
(正確に言えば、遠回りする既存ルート(猿猴橋~稲荷町)での信号待ち時間も30%に含まれているので、駅前大橋線が整備されれば比率で言う「信号待ち時間」はもう少し少なくなります。今回は単純に30%減で計算しています。)

 

政府の統計サイト「e-stat」は、設定した条件で自動的に作図、集計までやってくれる便利なものです。
歩行速度は時速4km/hとしました。
上の表で設定した電停別徒歩時間で行ける範囲を、ケースごとに描写したのが下の図になります。

■広島駅を起点とした15分到達可能範囲【現況】

↑ 範囲に含まれる就業者数:2,897人

 

■広島駅を起点とした15分到達可能範囲【駅前大橋線整備】

↑ 範囲に含まれる就業者数:6,457人

 

■広島駅を起点とした15分到達可能範囲【駅前大橋線整備+優先信号フル整備】

↑ 範囲に含まれる就業者数:11,717人

 

学生時代の研究が思い出される…。

まとめると下表の通りです。

 

 

あくまで参考として御覧くださいね。。
この図では紙屋町から宇品方面に向けて伸ばしたので、西広島方面にも同様の範囲が広がっていくことを考えると、平和公園もカバーされ観光面の恩恵もあります。

もっと正確にやって純度を高めていくと、経済効果の算定にも使用できます。

 

広島市には、都心内の円滑な移動手段の確保に向けて、現状分析と字面だけの対策検討だけでなく、
「具体的に、いつまでに、どの程度のレベルを目指すのか」という数値的な目標を設定して、
そのためにどんなメニューが考えられるのか、という順番で対策を検討し実行に移してほしいと常々思っています。

これだけ長い間議論されていながら、駅前大橋線以外の抜本的な対策が進んでいない状況なので、
それくらい明確なビジョンを示して動いていかなければ、今後も変わらないですよ。

よくこの話題では広電が槍玉に上がりますが、民間企業でできることは限られます。
基幹となる都心内の交通手段の確保、ひいては業務・商業における都市の競争力の向上のため、広島市には改めてお願いしたいです。

LRTが全国で脚光を浴び始め、宇都宮では初めて完全な新設LRTの開業が決まりました。
この期を逃すわけにはいきません。

guest
103 Comments
古い順
新しい順 高評価順
Inline Feedbacks
View all comments