10年後に日中全ての車両をバリアフリー化へ 広島電鉄『部分低床車』も視野に

広島電鉄は、元旦の中国新聞の記事で、今後の路面電車に関する新たな方向性を明らかにしました。

毎年増備してきた超低床車両は今後も導入を導入を続けるとし、
全車両に占める低床車両の比率を現在の34%から10年後には50%以上に高めるとしています。
これにより日中はほぼ全て低床車で運行されるようになるとのこと。

ただし、車両製造コストの高騰を踏まえ、
これまでの100%超低床車両に限定せず、部分低床車両の導入も選択肢としており、
床が高い既存車両を部分低床車両に改造することも視野に入れるようです。

それには運賃収受方法の変更も前提となっており、今後、広電の新しい姿、新しい乗り方を導くものになるかもしれません。

 

 

報道の内容

【中国新聞】:広電の次世代路面電車、「部分低床」も選択肢 車両価格抑えつつバリアフリー推進

 

 

部分低床車という考えがもたらす多くのメリット

これは素早く社内で方針を決めて一気に進めてほしい。

広島電鉄はこれまで、100%超低床車両に限定して車両のバリアフリー化を進めてきました。
今回の報道にあるような「部分低床車も検討を始める」という新しい方針は、
バリアフリーに留まらず運行面でも一つのターニングポイントになる可能性があります。

中国新聞の記事にあるように部分低床車で「バリアフリー化」という目的を達するためには、
段差のある車内移動を無くす、つまりどの全扉で降車可能な全扉乗降を多くの車両に拡大する必要があります。

逆に、全扉乗降をすべての車両に導入することで、
部分低床車の導入という思想を取り入れることができるようになり、バリアフリー化を加速させることが可能となる、とも言えますね。(卵が先か鶏が先か)

 

そして何より、降車の際に出口扉まで移動しなくて済むので、混雑の平準化や乗降時間の短縮といった全扉乗降の大きなメリットをすべての列車で享受できるようになります。

 

将来的に、もし法律が改正され30m以上の超大編成車両が走らせられるようになった時、
扉が乗車と降車で別々であればさらに長い距離を歩いていかなければならなくなるので、
全扉乗降は必須です。

編成を大型化できれば当然定員が増えるので、現状と同じ輸送力を確保するなら列車密度を下げることが可能となります。
電車優先信号の導入検討にあたり、電車と交差する側が影響を受ける回数が少なくなるため、列車密度が少なくなる方が優先信号の導入拡大のハードルも下がります。

 

このように、車両バリアフリー化の加速、全扉乗降による利便性向上、乗降時間の短縮による表定速度の改善、
そして将来的には編成の大型化と優先信号拡大による表定速度の向上も期待できる。

乗客にとって非常に多くのメリットがあるわけです。

 

 

 

『セルフ乗車方式』の拡大と課題

もちろん課題もあります。
全扉乗降により乗客自らが精算を行う「セルフ乗車方式」では、不正乗車発生の可能性も否定できません。

このブログでもお知らせしていた、路面電車の運賃収受に関する講演会のテーマにもなっていたところです。
(このブログでは今後、「信用乗車方式」から「セルフ乗車方式」に呼称を改めます。)

 

現在の広島電鉄では、1000形「グリーンムーバーLEX」のみ、ICカード利用者に限定して、全扉乗降の運用が行われていますが、
広島電鉄によると、1000形における現状の「中扉からの降車」は約4割ほどで、多くの乗客に利用されているようです。

そりゃそうですよね。混雑した車内を掻き分けて降車扉まで行かなくとも近くの扉から降りられるのであればそちらを選択します。
特にこの密を避けたいご時世です。

心配されていた不正乗車については、中国新聞の上記記事に全体の1%だったことが記載されています。
また、講演会資料によると、その1%のうちの多くはカードのエラー等で支払いが完了しなかった人であるとのことで、
悪意を持って不正を働いた人はほんの極僅かだったことになります。

”広電では全扉降車方式を導入した当初、不慣れな利用者などによる運賃未払いが1%程度あった。”中国新聞デジタル

 

新広島駅が開業する2025年頃までに宮島線直通の3連接・5連接車両にも展開させていく
という”覚悟”が分かり嬉しかったです。

本来、120万都市に相応しい市民の足を確保するため、行政が「ウチが責任を持つからやってくれ」ぐらいのことを言ってほしいものですが、
公平性の観点もありますからすぐには難しいのも事実…。

 

 

現在はICカード利用者に限定している「セルフ乗車」ですが、
将来的には現金利用者や一日券利用者にも対応していく必要があります。
(そこで本当の「セルフ乗車」と言える)

ICカードの利用率が高いとはいえ、今後パスピーの廃止も明言されている中で、
車内でそれに変わる精算処理が煩雑化し乗降時間が増えては意味がありません。

現金利用者は基本的に車外精算とし、券売機で簡易ICカードかQRコードが入ったチケットを発行、
乗降時は不正乗車対策(※)も兼ねて、全ての利用者に乗車時に同じ動作をしてもらう(ICカードをタッチ、またはQRコードをタッチ)
くらいのことが、いずれは必要ではないかと思います。

※不正乗車対策:前述の講演会の講師、柚原誠先生の提唱。同じ動作をしない=不正乗車であることが周囲にすぐ知れるため、心理的に不正を抑止する狙いがある。

 

あとがき

100%低床車に限定せず部分低床車も検討する、
という新しい方針に、多くの課題が残る路面電車の今後に少し明かりが見えてきたように感じます。

記事には
”広電によると、最新鋭の100%低床車「グリーンムーバーエイペックス」は2019年にデビューした当時は1編成3億8千万円、21年度購入分は同4億4千万円(予算ベース)。05年導入の「グリーンムーバーマックス」の3億2千万円に比べ、大幅に値上がりした。”中国新聞デジタル
とあり、2005年に導入した5100形に比べ約38%も値上がりしているようです。
既存の床の高い3800形・3900形・3950形(ぐりーんらいなーシリーズ)の、例えば中間車両だけ低床車両に取り替えるだけなら、費用にかなりの違いが出そうですね。
(設計等の初期コストはかかるとしても)

ぐりーんらいなーは、底床のグリーンムーバーに比べ全長が約3mほど短いです。
部分底床の改造と合わせて、底床の中間車を2連接組み込むなどして30m化し、輸送力を増やせたら面白いです。(”変態編成”になりそうですが)

 

それにしても、半導体不足やコロナ禍による人手不足があったにせよ、
ほとんど同じスペックなのに凄い値上がりですね…。
5100形以降の超低床車両は、近畿車輛・三菱重工業・東洋電機製造の3社が共同で開発した「JTRAM」と呼ばれる製品です。
モジュール化されており、3連接18m級にも5連接30m級にも対応できるのですが、国内で導入するのは広島電鉄だけなのが少し残念ですよね。他の都市が導入してくれればもう少し単価が下がるかもしれないのに…。

宮島線走行を想定し、3連接・5連接ともモーターの性能が高いものが採用されているようですが、
利便性を落とさずにもう少しコストダウンはできないんでしょうか・・・。

5200形「GREEN MOVER Apex」は、広電の中で一番好きな車両です。
いつかはこれの7連接や9連接車両が広島都心を走る姿を見てみたい…。

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